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| 主 文 |
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1 福岡県公安委員会が原告に対してした平成18年8月21日付別紙営業目録記載の営業に関する届出確認書不交付通知書の交付の取消請求を棄却する。
2 原告のその余の訴えを却下する。
3 訴訟費用は原告の負担とする。 |
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| 事 実 及 び 理 由 |
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第1 請求の趣旨
1 福岡県公安委員会が、原告に対し、平成18年8月21日付で行った別紙営業目録記載の営業に関する届出確認書不交付通知書の交付を取り消す。
2 福岡県公安委員会は、原告に対し、別紙営業目録記載の営業に関する届出確認書を交付せよ。
3 訴訟費用は、被告の負担とする。
第2 事案の概要
本件は、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下「法」という。なお、法の規定については、特段の記載がない限り、平成17年の法の一部改正法(平成17年11月7日法律第119号・以下「平成17年改正法」という。)の改正後の法の規定を摘示する。)2条6項2号の店舗型性風俗特殊営業(以下「本件営業」という。)を営む原告が、平成17年改正法附則3条2項に基づき、福岡県公安委員会に対し、本件営業について、法第27条3項に規定する書類を提出したところ、福岡県公安委員会が、本件営業に関する届出確認書不交付通知書を交付したこと(以下「本件行為」という。)が違法であるとして、原告が、被告に対し、本件行為の取消しを求めるとともに、福岡県公安委員会が原告に対し本件営業に関する届出確認書を交付すべき旨を命ずることを求める義務付けの訴えの事案である。
1 関連法令
(1) 届出制の採用等に関する規定
ア 届出制の採用
法2条6項の店舗型性風俗特殊営業を営業しようとする者は、営業所ごとに、当該営業所を管轄する公安委員会に、所定の事項を記載した届出書を提出しなければならない(法27条1項)。
イ 営業禁止区域等とその適用除外
店舗型性風俗特殊営業は、一団地の官公庁施設、学校、図書館若しくは児童福祉施設又はその他の施設でその周辺における善良の風俗若しくは清浄な風俗環境を害する行為若しくは少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止する必要のあるものとして都道府県条例で定めるものの敷地(これらの用に供するものと決定した土地を含む。)の周囲200メートルの区域においては、これを営んではならない(法28条1項・以下、上記区域を「営業禁止区域」という。)。
法28条1項に定めるもののほか、都道府県は、善良の風俗若しくは清浄な風俗環境を害する行為又はは少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止するため必要があるときは、条例により、地域を定めて、店舗型性風俗特殊営業を営むことを禁止することができる(同条2項・以下、上記地域を「営業禁止地域」といい、営業禁止区域と併せて「営業禁止区域等」という。)。
法28条1項の規定又は同条2項の規定に基づく条例の規定は、これらの規定の施行又は適用の際現に法27条1項の届出書を提出して店舗型性風俗特殊営業を営んでいる者の当該店舗型性風俗特殊営業については適用しない(法28条3項・以下、上記適用除外を受けうる法律上の地位を「既得権」という。)。
ウ 福岡県条例による営業禁止地域の設定
福岡県の「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律施行条例」(昭和60年2月13日施行)10条は、法28条2項の規定に基づき、福岡県の全地域を店舗型性風俗特殊営業の禁止地域と規定している。
エ 経過措置
上記ア及びイの各規定は、昭和59年の法の一部改正法(昭和59年法律第76号)により新設されたものであるところ、同改正法の附則4条2項は、法28条3項の適用に関し、同改正法の施行の日(昭和60年2月13日)から1月を経過するまでの間に届出書を提出した場合においては、同法の施行の際現に届出書を提出して営業している者とみなすとの経過措置を規定している。
(2) 届出確認書に関する規定
ア 届出確認書又は届出確認書不交付通知書の交付
公安委員会は、法27条1項の届出があったときは、当該営業が営業禁止区域等にあるときを除き(法27条4項ただし書)、届出書を提出した者に対し、当該営業に係る届出確認書を交付しなければならない(法27条4項)。
公安委員会は、同条1項の届出書の提出があった場合、同条4項ただし書の規定により届出確認書を交付しないこととするときは、当該届出書を提出した者に対し、届出確認書不交付通知書を交付しなければならない(法施行規則43条2項)。
イ 届出確認書の備置義務
店舗型性風俗特殊営業を営む者は、当該営業所の所在地を管轄する公安委員会から交付を受けた届出確認書を当該営業所に備え付けるとともに、関係者から請求があったときは、これを提示しなければならない(法27条5項)。
ウ 広告又は宣伝の禁止
法27条1項の届出書を提出した者(同条4項ただし書の規定により同項の書面の交付がされなかった者を除く。)は、当該店舗型性風俗特殊営業以外の店舗型性風俗特殊営業を営む目的をもって、広告又は宣伝をしてはならない(法27条の2第1項)。
法第27条の2第1項に規定する者以外の者は、店舗型性風俗特殊営業を営む目的をもって、広告又は宣伝をしてはならない(法27条の2第2項)。
エ 経過措置
上記アないしウの各規定は、平成17年改正法により新設されたものであるところ、平成17年改正法附則3条1項は、平成17年改正法施行の際現に平成17年改正法による改正前の法の規定により届出書を提出して性風俗関連特殊営業を営んでいる者の当該営業については、平成17年改正法の施行の日(平成18年5月1日)から3月を経過する日までの間は、法27条1項の規定にかかわらず、なお従前の例によるものと経過措置を規定し、平成17年改正法附則3条2項は、上記の者が平成17年改正法の施行日から3月を経過する日までの間に当該営業について法27条3項に規定する書類を提出したときは、その者は、法27条1項の届出書を提出したものとみなすとの経過措置を規定している。
また、平成17年改正法附則4条1項は、法28条1項及び2項の規定に基づく条例の規定は、平成17年改正法附則3条2項の規定により法27条1項の届出書を提出したものとみなされる者の当該営業については、適用しないとの経過措置を規定している。
2 既得権の喪失についての解釈運用の状況
警察庁生活安全局長の作成に係る「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関するj法律等の解釈運用基準について」(以下「解釈運用基準」という。)は、既得権の喪失要件について、下記の基準を定めている(乙2・以下「本件基準」という。)。 |
| 記 |
法第28条第3項の規定の適用対象となる「当該店舗型性風俗特殊営業」とは、当該規定の適用の際現に営んでいる店舗型性風俗特殊営業の範囲内の営業を意味するものであり、営業所の新築、移築、増築等をした場合には、その店舗型性風俗特殊営業については同項の適用はなくなる。
なお、「営業所の新築、移築、増築等」には、次のような行為が該当する。
@ 営業所の建物の新築、移築又は増築
A 営業所の種別に応じ営業所内の次の部分の改築
(@) 法第2条第6項第1号、第2号又は第4号の営業にあっては、当該個室
(A) 法第2条第6項第3号の営業にあっては、営業の種類に応じそれぞれ次の部分
a 令第2条第1号の営業 当該個室
b 令第2条第2号の営業 当該個室又は当該個室の隣室若しくはこれに類する施設
c 令第2条第3号の営業 当該客席又は舞台
(B) 法第2条第6項第5号の営業にあっては、当該物品を販売し、又は貸し付ける場所
B 営業所の建物につき行う大規模の修繕若しくは大規模の模様替又はこれらに準ずる程度の間仕切り等の変更
C 営業所の建物内の客の用に供する部分の床面積の増加
D 営業の種別又は種類の変更(ストリップ劇場をのぞき劇場にする場合等)
(注) 「新築」とは、建築物の存しない土地(既存の建築物のすべてを除去し、又はそのすべてが災害等によって滅失した後の土地を含む。)に建築物を造ることをいう。
「移築」とは、建築物の存在する場所を移転することをいう。
「増築」とは、一の敷地内の既存の建築物の延べ面積を増加させること(別棟で造る場合を含む。)をいう。
「改築」とは、建築物の一部(当該部分の主要構造部のすべて)を除却し、又はこれらの部分が災害等によって消滅した後、これと用途、規模、構造の著しく異ならないものを造ることをいう。
「大規模の修繕」とは、建築物の一種以上の主要構造部の過半に対しおおむね同一の形状、寸法、材料により行われる工事をいう。
「大規模の模様替」とは、建築物の一種以上の主要構造部の過半に対し行われるおおむね同様の形状、寸法によるが材料、構造等は異なるような工事をいう。
「主要構造部」とは、壁、柱、床、はり、屋根又は階段をいう。ただし、間仕切り、最下階の床、屋外階段等は含まない(建築基準法第2条第5号参照)。
「これらに準ずる程度の間仕切り等の変更」とは、営業所の過半について間仕切りを変更し、個室の数、面積等を変える場合等をいう。
3 前提事実(争いのない事実は証拠を掲記しない。)
(1) 原告は、別紙営業目録記載の営業所(以下「本件営業所」という。)の所在地において、法2条6項2号の店舗型性風俗特殊営業(本件営業)を営んでいる者である。
被告は、福岡県公安委員会が所属する地方公共団体である。
(2) 原告は、昭和60年2月18日、風俗関連営業開始届出書を福岡県公安委員会に提出し、以後、本件営業所において、本件営業を営んでいた。
(3) 原告は、平成18年7月3日、平成17年改正法附則3条1項及び2項に基づき、福岡県公安委員会に対し、本件営業について、法27条3項に規定する書類を提出した(以下「本件届出」という。)。
(4) 本件行為
福岡県公安委員会は、本件届出に関し、平成18年8月21日付で、原告に対し、本件営業所の所在地は法28条2項の営業禁止地域にあたり、原告は、従来、既得権に基づいて本件営業を営むことが可能であったが、本件営業所の構造が既得権の生じた当時と比較して著しく異なっており、営業所の建物内の客の用に供する部分の床面積の増加に該当することから、上記既得権が消滅したことを理由とする届出確認書不交付通知書を交付した(甲7、乙10、11)
(5) 原告は、平成18年8月29日、本件訴えを提起するとともに、被告に対し、福岡県公安委員会が原告に対し本件営業に係る届出確認書を仮に交付すべき旨を命ずる仮の義務付けの申立てをしたところ(福岡地方裁判所平成××年(行ク)第××号)、福岡地方裁判所は、同年12月6日、同申立てを却下する旨の決定をした。
原告は、平成18年12月13日、上記決定の取消しを求めて即時抗告をしたところ(福岡高等裁判所平成××年(行ス)第×号)、福岡高等裁判所は、平成19年3月9日、同抗告を棄却する旨の決定をした。
(当裁判所に顕著な事実)
4 争点
(1) 本件行為が行政事件訴訟法3条2項の「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に該当するか。
(2) 本件行為の適法性
(3) 義務付けの訴えの要件を満たすか。
5 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)について
(原告)
本件行為は、原告が本件届出をしたのに対し、福岡県公安委員会において、原告が既得権を保有するか否かについて判断し、それに基づいて、原告に対し届出確認書を交付しないと決定をし、同決定に基づいて、届出確認書を交付しないという行為を行うものであり、これにより、原告は「無届営業」とされ、掲示摘発を受ける可能性も発生するのであって、本件行為が原告の上記既得権という具体的権利ないし法律上の地位に直接具体的影響を与えるものとして、行政事件訴訟法3条2項の「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に該当することは明白である。
(被告)
行政事件訴訟法3条2項の「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」とは、行政庁の法令に基づく行為のすべてを意味するのではなく、公権力の主体たる国又は地方公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいうと解すべきである。
店舗型性風俗特殊営業については、届出制となっており、法2条1項の風俗営業のように、公安委員会の許可が必要とされていないから、店舗型性風俗特殊営業においては、公安委員会が単に営業を営もうとする者から届出を受けるという片面的関係があるに過ぎない。また、無届営業や営業禁止地域における営業が禁止されているのは、法が規定しているからであって、公安委員会の意思決定によるものではない。したがって、法違反で検挙されて営業ができなくなったとしても、これは法の処罰規定(法49条参照)がもたらす事実上の効果に過ぎないものである。以上によれば、店舗型性風俗特殊営業の届出書の提出に対し、公安委員会が何らかの法的効果を発生させるという関係にはない。
届出確認書は、単に届出書の提出があったという事実を確認するものに過ぎず、これを交付したとしても、営業者の営業を適法たらしめるなど、何らかの法的効果が発生するものでないから、届出確認書を交付する行為は、法令に基づく行為ではあるが、行政事件訴訟法3条2項の「行政庁の処分その他の公権力の行使に当たる行為」には該当しないというべきである。
届出確認書不交付通知書については、届出確認書不交付通知書の交付によって、営業者の営業を違法ならしめるなど、何らかの法的効果が発生するものではないから、届出確認書不交付通知書を交付する行為についても、届出確認書の場合と同様、法令に基づく行為ではあるが、行政事件訴訟法3条2項の「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」には該当しないというべきである。
よって、本件行為は、行政事件訴訟法3条2項の「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に該当しない。
(2) 争点(2)について
(被告)
原告は、昭和60年2月18日に本件営業に係る届出書を提出した後、本件営業所につき、@ 入口左手の受付兼事務所を撤去しての接客用個室の増加、A 入口右手奥の客待合室を撤去しての接客用個室化、B 入口正面付近の個室2室を撤去しての客待合室の設置及び倉庫を撤去しての個室の増加、C 入口右手の階下に通じる階段を新設等を内容とする工事を行った。上記工事は、実質的に客室の床面積を増加したものであり、本件基準の「営業所の建物内の客の用に供する部分の床面積の増加」に該当し、原告は、上記工事の時点で本件営業に係る既得権を喪失したものである。
なお、原告は、本件営業所につき、昭和60年2月18日の届出当時の状態への復元工事を行ったと主張しているが、仮に営業所を現状に復元したとしても、一度喪失した既得権が復活することはない。
以上によれば、本件行為は適法である。
(原告)
ア 前記2の2の法の規定によれば、平成17年改正法の施行前に法27条1項の届出をして店舗型性風俗特殊営業を営んでいた者は、平成17年改正法附則の規定に従って法27条3項の書類を提出すれば、営業禁止地域であっても、適法に営業ができるものと認められていることが明らかである。とすれば、このように適法に営業することが認められている営業者に対し、営業の停止又は廃止を命じるには、法30条1項及び2項の規定によるべきことが明らかであり、このことは、法30条1項及び2項と同様の要件となっている風俗営業に関する法26条の規定の趣旨から見ても明白である。
しかしながら、原告には、法30条1項が規定する営業の停止又は廃止を命じられるべき事実は一切存在しない。それにもかかわらず、被告は、平成17年改正法附則の規定に従って期間内に適法に届出をした原告に対し、届出確認書を交付せずに本件行為を行ったのであり、本件行為が法の規定を逸脱した違法な処分であることは明らかである。
イ 以下で述べるとおり、本件行為に理由がないことは解釈運用基準によっても明らかである。
(ア) 前記2の2の本件基準の記載に照らせば、営業禁止地域において既得権に基づいて営業を営んでいた者が既得権を失うには、本件基準の「(注)」に記載されている営業所の「新築」、「移築」、「増築」に該当することが不可欠の要件であり、客の用に供する床面積の増加は、上記「新築」、「移築」、「増築」の要件に合致することを前提に、その例示として挙げられているに過ぎないことは明らかである。そして、「新築、移築、増築等」の程度についても、わざわざ説明が加えられ、主要構造部の全てを除却し新たに造る場合を「改築」と説明しているように、極めて大規模な変更が想定されていることが明らかである。
(イ) これを本件についてみると、原告は、平成12年5月11日から同月31日まで、平成16年2月19日から同月29日までの2回にわたり、本件店営業所の改装工事(以下、併せて「本件工事」という。)をしたが、決して店舗自体を新築したり、あるいは改造、増築等したものではなく、店舗内の内装を新しくするにあたり、店舗の総床面積は同一を保ったまま、待合室部分を一室客室として、客室数を8室から9室に増加したに過ぎず、善意で営業を続けてきたものである。
別表のとおり、本件工事により、個室の行床面積の合計が16.52平方メートル、客室のトイレの一つの面積が0.34平方メートル増加しているものの、客の用に供する部分と明らかに認められる待合室、客用のトイレ、客の通行する廊下の面積が合計8.59平方メートル減少しており、上記増加分を相殺すると、わずか7.93平方メートルの増加となるに過ぎない。加えて、受付兼事務室(客の受付及び指名等の希望を尋ねる場所)や倉庫(客のための用品の保管)についても、その用途から、客の用に供する部分と仮にみた上、その減少分の合計6.47平方メートルをさらに差し引くと、1.46平方メートルの増加となり、上記減少分の2分の1(3.235平方メートル)を差し引いたとしても、4.695平方メートルの増加にしかならない。
しかも、原告は、平成18年5月25日、小倉北署生活安全課の担当者から、届出なしに店舗の部屋数を変更することができないとの指摘を受けたことから、本件営業所につき、昭和60年2月18日の届出当時の状態への復元工事を行ったものである。
上記事情によれば、本件工事が「新築、移築、増築等」に該当しないことは明らかである。
(ウ) 被告は、昭和60年2月18日の届出書とともに提出された本件営業所の図面と本件工事後の本件営業所の間取りを比較したところ、@ 入口左手の受付兼事務所と廊下を撤去しての接客用個室の増加、A 入口右手奥の客待合室を撤去しての接客用個室化、B 入口正面付近の個室2室を撤去しての受付と客待合室の設置及び倉庫を撤去しての個室の増加、C 入口右手の階下に通じる階段の新設等を行っていることが認められ、これにより、原告が既得権を喪失した旨主張する。しかしながら、上記Cについては、同階段は、昭和60年2月18日の届出書の提出当時においても設置されていたところ、担当官から部屋の間取りだけ表示した図面を持参するよう指示を受けたことから、提出図面に階段を記入しなかったものであり、明白に事実に反している。また、上記@ないしBについても、待合室と倉庫の場所が使用上不便であったために位置を移動したのと、その際に右手入口奥に一室部屋を増やしたという変更に過ぎず、大規模かつ悪質な改築等として既得権を喪失させるべき行為でないことは明らかである。
(エ) 以上によれば、本件行為は理由のない又は裁量の範囲を逸脱した違法な処分というべきである。
(3) 争点(3)について
(原告)
前記(2)(原告)で述べたところによれば、本件行為は取り消されるべきものであり、本件行為の取消しを求める原告の請求に理由があると認められ、かつ、福岡県公安委員会が原告に対し本件営業に関する届出確認書を交付すべきであることが法の規定から明らかであると認められ又は福岡県公安委員会が原告に対し本件営業に関する届出確認書を交付しないことがその裁量の範囲を超え若しくはその濫用になると認められる。
(被告)
原告の主張は争う。
第3 争点に対する判断
1 争点(1)について
(1) 行政事件訴訟法3条2項の「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」とは、公権力の主体である国又は地方公共団体の機関が行う行為のうち、その行為により直接に国民に権利義務を形成し、又はその範囲を確定することが、法律上認められているものをいうと解するのが相当である(最高裁昭和39年10月29日第一小法廷判決・民集18巻8号1809頁参照)。
(2) これを本件についてみると、法及び法施行規則は、公安委員会が、法27条1項に基づき店舗型性風俗特殊営業に係る届出をした者(平成17年改正法附則2項により法27条1項の届出をしたとみなされる者を含む。以下同様。)に対し、当該届出に係る営業所が営業禁止区域等でないとき(営業禁止区域等にあっても営業者が既得権を有するときを含む。)は届出確認書を交付し、営業禁止区域等にあるとき(営業者が既得権を有するときを除く。)は届出確認書不交付通知書を交付しなければならないとしている。
そうすると、法及び法施行規則は、公安委員会に対し、法27条1項の届出がされた場合、当該届出に係る営業所が営業禁止区域等にあるか否か、営業者が既得権を有するか否かを認定判断する権限を付与し、公安委員会において、当該届出をした者に対し、その認定判断の結果を告知し、これに応答すべきことを定めているのであって、届出確認書の交付は、当該届出に係る営業所が営業禁止区域等にない、あるいは、営業禁止区域等にあっても既得権を有する旨の応答であり、届出確認書不交付通知書の交付は、当該届出に係る営業所が営業禁止区域等にあり、かつ、営業者が既得権を有しない旨の応答であると解するのが相当である。
(3)ア 次に、届出確認書及び届出確認書不交付通知書の効力について検討すると、法27条の2第1項は、法27条1項の届出書を提出した者(同条4項ただし書の規定により同項の書面の交付がされなかった者を除く。)は、当該店舗型性風俗特殊営業以外の店舗型性風俗特殊営業を営む目的をもって、広告又は宣伝をしてはならないと規定し、法27条の2第2項は、同条1項に規定する者以外の者は、店舗型性風俗特殊営業を営む目的をもって、広告又は宣伝をしてはならないと規定している。法の上記規定に照らせば、店舗型性風俗特殊営業については、広告又は宣伝が一般的に禁止されているところ、届出確認書の交付があって初めて当該営業に係る広告又は宣伝が可能となるのであり、届出確認書の交付は、当該営業に係る広告又は宣伝について上記一般的禁止を解除する法的効力を有するものと解される。
イ ところで、法30条2項は、公安委員会が禁止区域等で店舗型性風俗特殊営業を営んだ者に対し、当該施設を用いて営む店舗型性風俗特殊営業の廃止を命ずること(以下「廃止命令」という。)ができる旨規定しているものの、届出確認書不交付通知書の交付は営業廃止命令の発令要件とはなっていないから、届出確認書不交付通知書の交付の法的効果として営業廃止命令が発令されるという関係にないことは明らかである。
しかしながら、前記(2)で述べたとおり、店舗型性風俗特殊営業の届出がされた場合、公安委員会は、当該届出に係る営業所が営業禁止区域等にあるか否か、営業者が既得権を有するか否かを審査し、当該営業所が営業禁止区域等にない、あるいは、営業禁止区域等にあっても営業所が既得権を有すると認定判断したときには届出確認書を交付し、当該営業所が営業禁止区域等にあり、かつ、営業者が既得権を有しないと認定判断したときには届出確認書不交付通知書を交付することが義務づけられているところ、上記認定判断は、営業廃止命令を発令するか否かの認定判断と、その主体及び判断内容を同じくしているのであるから、届出確認書不交付通知書の交付は、当該交付を受けた者に対し、当該交付を受けたにもかかわらず当該営業を開始ないし継続した場合には、相当程度の確実さをもって、当該営業について営業廃止命令を受けるという結果をもたらすものといえ、届出確認書不交付通知書の交付を受けた者は、当該交付を受けた段階で、実際上当該営業の開始ないし継続を断念せざるを得ないということになる。
(4) 以上述べた届出確認書又は届出確認書不交付通知書の交付の性質並びに法律上又は事実上の効力にかんがみれば、法27条1項の届出は、届出確認書の交付を求める行為として行政手続法2条3号の「申請」に当たり、本件行為は、行政訴訟法3条2項の「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に当たると解するのが相当である。
2 争点(2)について
(1)ア 原告は、法30条1項規定の事実がない限り、営業禁止地域で既得権に基づき店舗型性風俗特殊営業を営んでいる者の既得権は失われない旨主張するが、その趣旨は、解釈運用基準の定める本件基準(前記第2の2)の合理性を争うものであると思われる。
そこで、本件基準の合理性を検討すると、法28条1項及び2項が、条例により営業禁止区域等を規定することを認める一方、法28条3項が、法28条1項及び2項の条例の適用除外を受ける店舗型性風俗特殊営業について、「当該」との文言を用いていること等からすると、法28条3項は、条例によって営業禁止区域等が規定された場合、それらの規定の施行又は適用の際現に店舗型性風俗特殊営業を営んでいる者に対し、その当時の営業の状態が存続する限りにおいて、当該営業を継続することを認めた経過措置を定めた規定と解するのが相当である。
そして、上記のような法28条3項の経過措置を定めた規定としての性格に照らせば、営業所の増築、改築等により、建物の構造に大規模な変化があった場合のみならず、より小規模な、改築等の結果、従前の営業に比して規模の拡大や営業内容の変更等がみられる場合にも、その結果、従前の営業との同一性が失われたものとして、既得権が失われるものと解するのが相当である。
イ 一方、解釈運用基準は、前記第2の2のとおり、既得権の喪失要件について、本件基準を定めていることろ、その内容は、上記アと同旨であって、営業禁止地域等が規定された当時の営業の状態が存続する限りにおいて既得権を認めるものである。したがって、本件基準は、法28条3項の上記経過措置を定めた規定としての性格に合致するといえるから、同項の解釈として合理性が認められるものというべきである。
原告は、法28条3項は、営業禁止地域等が設定された当時に店舗型性風俗特殊営業を営んでいた者に対し、永続的な既得権を与えたものと解すべきであり、同項の解釈として、法30条1項規定の事実がない限り、既得権の喪失を認めるべきでない旨主張するが、上記法の規定の文言等に照らし、採用できない。
(2) 前記前提事実によれば、原告は、昭和60年2月18日の届出以降、法28条3項の既得権に基づいて、本件営業を営んでいたことが認められる。以下、本件基準に照らし、原告が本件営業に係る既得権を喪失したか否かについて検討する。
ア 後掲の証拠によれば、以下の事実が認められる。
(ア) 原告は、平成12年5月11日から同月31日までの間、本件営業所において、2手に分かれていた廊下を一つにした上、部屋の位置や形状を変更する、各接客用個室にシャワーを設置し、内装を変更する等の改装工事を行った(甲8、14ないし16、証人A、原告)。
(イ) 原告は、平成16年2月19日から同月29日までの間、客の待ち時間を減らすため、本件営業所において、待合室を接客用個室に変更する改装工事を行った。これにより、本件営業所の接客用個室の数は、昭和60年2月18日の届出当時の8室から9室に増加した。(甲8の2、10の2、14、15、証人A、原告)
(ウ) 昭和60年2月18日の届出当時と本件工事(上記(ア)及び(イ)の各工事)後の本件営業所内の各部分の面積を比較すると、別表記載のとおりとなる(甲9、10)。
(エ) 原告は、平成18年5月25日、小倉北署生活安全課の担当者から、本件工事について、届出なしに店舗の部屋数を変更することができないとの指摘を受けたことから、同年6月14日から29日までの間、本件営業所につき、昭和60年2月18日の届出当時の状態に復元する工事を行った(甲3、6の1、8の3、証人A)。
イ 前記前提事実と上記アの認定事実に基づき判断する。
本件基準は、既得権の喪失要件として「営業所の建物内の客の用に供する部分の床面積の増加」を定めている。ここにいう「客の用に供する部分」とは、上記(1)アで述べた法28条3項の解釈に加え、法2条6項2号の店舗型性風俗特殊営業は、個室を設け、当該個室において異性の客の性的好奇心に応じてその客に接触する役務を提供することに照らせば、同項2号の店舗型性風俗特殊営業においては、原則として、上記役務が客に提供される個室部分をいうものと解するのが相当である。
上記ア(イ)、(ウ)の認定事実のとおり、本件工事のうち平成16年の工事により、本件営業所の接客用個室の数は8室から9室に増加し、接客用個室の床面積の合計は16.52平方メートル増加しており、「営業所の建物内の客の用に供する部分の床面積の増加」の要件に該当することが認められる。
したがって、原告は、本件工事により、本件営業に係る既得権を喪失したものと認められる。
ウ これに対し、原告は、本件基準の「営業所の建物内の客の用に供する部分の床面積の増加」の要件は、本件基準の「営業所の新築、移築又は増築」の例示として挙げられているものであり、上記要件を理由に既得権が喪失したものと認めるためには、「営業所の新築、移築又は増築」に該当すること、すなわち店舗の構造に大規模な変更があったことが前提条件として必要である旨主張する。
しかしながら、前記第2の2のとおり、本件基準は、「営業所の新築、移築、増築等」の具体例として、「営業所の建物の新築、移築又は増築」及び「営業所の建物内の客の用に供する部分の床面積の増加」を並列的に定めているところ、このような本件基準の体裁に照らせば、「営業所の建物内の客の用に供する部分の床面積の増加」は、「営業所の建物の新築、移築又は増築」の要件とは独立の要件として規定されていることが明らかである。
また、上記(1)で述べたとおり、建物の構造の変更を伴わない改築、改装等の結果であっても、従前の営業に比して規模の拡大等がみられる場合には、既得権が失われるものと解されるところ、上記ア(イ)の認定事実のとおり、本件工事のうち平成16年の工事は、客の待ち時間の減少を目的として行われ、上記工事の結果、本件営業所において一時に接客し得る客の数は8名から9名に増加したものであって、これにより、本件営業所における営業の規模は相当に拡大したものといわざるを得ず、また、上記工事自体、このような営業の規模の拡大を目的としてされたものであって、本件工事の結果が軽微なものであったとはいえない。原告の上記主張は採用できない。
エ 原告は、本件基準の「客の用に供する部分」には、待合室、客用のトイレ及び客の通行する廊下部分も含まれ、客のための用品を保管する倉庫及び客の受付等を行う受付兼事務室の一部も含まれると解すべきところ、これを前提に計算すると、本件工事による「客の用に供する部分の床面積の増加」は、1.46ないし4.695平方メートルと、ごくわずかとなるから、本件工事により原告の本件営業に係る既得権が喪失したと解するのは不合理である旨主張する。
しかしながら、上記イで述べたとおり、本件基準の「客の用に供する部分」は、法2条6項2号の店舗型性風俗特殊営業においては、原則として、上記役務が客に提供される個室部分をいうものと解される上、上記ウで述べたとおり、本件工事により本件営業所における営業の規模は相当に拡大したものといわざるを得ないことに照らせば、原告の上記主張は採用できない。
オ 上記ア(エ)の認定事実のとおり、原告は、本件営業所につき、昭和60年2月18日の届出当時の状態への復元工事を行ったことが認められる。
しかしながら、上記(1)アで述べた法28条3項の経過措置を定めた規定としての性質にかんがみれば、一度既得権を喪失した場合、その後、営業を元の状態に復元したとしても、当該既得権は復活しないと解するのが相当であるから、上記事実をもって、一度喪失した原告の本件営業に係る既得権が復活したものとは認められない。
(3) 以上によれば、本件行為は適法なものと認められる。
3 争点(3)について
前記2のとおり、本件行為は取り消されるべきものと認められないから、原告の請求のうち、本件営業に関する届出確認書の交付の義務付けを求める部分は、行政事件訴訟法37条の3第1項2号の要件を満たさないこととなる。
4 よって、原告の本件行為の取消請求は、理由がないから棄却することとし、その余の訴えは、不適法であるから却下することとし、主文のとおり判決する。 |
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| 福岡地方裁判所第6民事部 |
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| 裁判長裁判官 野 尻 純 夫 |
| 裁判官 前 澤 達 朗 |
| 裁判官 砂 古 剛 |
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